日記

健康診断を受けるためにD社へ行く。血を採られ、胴回りを測られ、なんとなく不安な気持ちのまま近い将来同期となるであろうひとたちと駅で別れた。皆おっとりしたおおらかそうなひとたちばかりでほっとするも、ロッカーに腕時計を忘れたことに気づき、蒼ざめて取りに戻る羽目に。母をはじめ幾人かのひとに「健康診断終わったよー」と報告したところ、ちょうど午後から出社のHさんと渋谷で落ち合い、ごはんを食べることになった。映画のレイトショーのチケット購入につきあってもらってからごはん。「文七元結」の裏設定(お久ちゃんは前妻の娘)を強調すると『走れメロス』的な効果が出るのでは、ということやら、でも談春の「文七元結」では「お久はたしかにあんたの娘かもしれないが、あたしの血も半分入ってンだよッ!」と啖呵を切っていたからその設定は使われてないよね、だのにぎやかに話す。Hさんは聞き手に回るとき、相槌を打つ姿勢がなんだか芥川龍之介然としている。Hさんを駅まで送り、いただいたチケットで(いつもすまないねえ、という気持ちでいっぱいです)ボタニカルアートを観るべくBunkamuraへ。ルドゥーテ「美花選」展。対象へ注がれる観察眼と愛情はある意味等しいのではないか、と思った。映画の開始までまだまだ時間があるので、名曲喫茶ライオンへ向かう。いちど行ってみたかったところです。「帝都随一を誇る」立体音響の宣伝に恥じぬ演奏が聴けた。シュトラウスの《ダフネ》。友人Mに手紙を書き上げて出る。

夜ごはんのあとで、ひさしぶりに独りで映画を観た。ほっとするような少し淋しいような妙な気持ち。足に合わない靴の痛みに苦悶しながら帰る。